海と森の恵み

極東地域の料理の概要

地元の人が何を食べているかと考えてみると、必ずロシアの極東地域の地理学と民俗学の話になってしまいます。この地域に住んでいる人は、19世紀~20世紀初めにロシアの様々な地域、朝鮮、中国から来た移民の子孫です。最初に来たのはザバイカル、オレンブルグ、ドン川、クバーニのコサック、その後はウクライナ人、ベラルーシ人、リトアニア人、モルドバ人、フィンランド人、ポーランド人もやってきました。また、ソビエト政権が沿海地方に樹立された後も、ソ連各地からの元兵士たちがここに残ったりしました。さらに、第2次世界大戦の時に国防関連企業の一部とその従業員がここに移転させられました。いろんな地域の出身者が混ざったことが、ここの地域の特徴となり、現在地元の人が家庭料理として食べているのは、ウクライナのボルシチとズラズィー(中身入りのハンバーグ)、ロシアのシチー(キャベツのスープ)とブリヌィー(ロシア風のクレープ)、中央アジアのピラフとラグマン(めん類と肉のシチュー)、シベリアのペリメニ(ロシア風の水餃子)とベリャシー(肉入り揚げパン)、朝鮮のキムチとヒョー(魚のマリネ)等の多国籍料理です。

ロシアに接する日本海とオホーツク海南部の海域は、海産物が非常に豊富です。二枚貝(ホタテ、ムール貝、カキ、アカガイ、シジミ、ホッキガイ)、棘皮動物(ウニ、ナマコ)、甲殻類(カニ、エビ)、頭足類(イカ、タコ)、海藻(昆布等)等があります。森も、マタタビ、マツブサ、松の実、ワラビ、ラムソン、キノコ、ベリー等が豊かです。この海産物も、植物と果実も地元の料理の材料になります。

極東地域の料理のレシピの本を探しても、店では売っていないでしょうが、地元の人に聞いてみれば、タコの調理方法、カキの開け方、ワラビまたはイクラの塩漬けの作り方、コマイの焼き方等についてプロのシェフのように説明してもらえる可能性が高いです。地元の人は、焼く前にキュウリウオの内臓を取るのは間違っていると思い、イカの料理だって山ほどレシピがわかり、タラバガニとズワイガニの区別が一目でできて、ホタテ貝の中身を全部食べてしまう等、独特な知識をもっているのです。

もちろん、極東地域の料理は、アジアの食文化の影響も強く受けています。一番強い影響は朝鮮料理、二番目は中華料理です。ロシア革命の前、沿海地方にくる中国人はほとんど季節労働者でしたが、朝鮮人は1930年代末に中央アジアとサハリンに追放されるまで沿海地方にずっと住んでいたのです。朝鮮料理はロシアの極東地域の食文化の欠かせない一部となり、我々は現在もキムチ、ニンニクとニンジンのサラダ、辛いワラビとキノコ等を家庭料理として食べています。「ピャンセ」というキャベツとひき肉が入った肉まんも、アメリカにおけるハンバーガーのように、極東地域の独特のファストフードになっています。

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